25周年おめでとう! 日本が誇る「すばる望遠鏡」ってなに?

「すばる望遠鏡」は日本の国立天文台が所有する光学望遠鏡です。今年2024年、すばる望遠鏡は運用開始から25周年を迎えました。
完成から25年も経ってしまうと、もう時代遅れな望遠鏡なのでは?…などと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そんなことはありません。すばる望遠鏡は25年経った今でも数々の「世界初」の研究成果を出し続けているのです。世界の最先端を走り続ける、日本が誇る望遠鏡についてご紹介します。`

クレジット:国立天文台

1999年、すばる望遠鏡「ファーストライト」

すばる望遠鏡は1992年6月から建設が開始され、1999年1月に実際に観測装置を使用した「ファーストライト」が行われました。
「ファーストライト」とは最初の試験運用のことで、「初めて天体の光をとらえること」からそう呼ばれています。

すばるファーストライトで公開された画像の1つ。銀河団 Abell 851。
クレジット:国立天文台

これはすばるのファーストライトで実際に撮像された、銀河の集まりである「銀河団」の画像です。
地球からこの天体まで辿り着くには光の速さで約50億年かかります。
つまり、我々はすばる望遠鏡を通して、約50億年前の光を見ているのです。

「遠い宇宙を見渡す。」

すばる望遠鏡のこれからを象徴するような、ファーストライトに相応しい観測結果です。

すばる望遠鏡って、こんな望遠鏡!

すばる望遠鏡の特徴は、なんといっても大きな鏡。
望遠鏡は、光を集める際にレンズを使うものと鏡を使うものがありますが、すばる望遠鏡は大きな鏡を使って光を集める「反射望遠鏡」と呼ばれるタイプの望遠鏡です。

鏡の大きさはなんと直径8.2メートル。
25年経った今でも、すばる望遠鏡は日本一大きな望遠鏡です。

すばる望遠鏡と筆者

すばる望遠鏡は日本が所有する望遠鏡ですが、ハワイのマウナケア山という場所に設置されています。

マウナケア山の標高は約4200メートル。
富士山よりも高い山で、うっかり走ったり大きな声を出したりするとすぐに息が切れてしまうほど、空気が薄く過酷な環境です。

標高の高さはこちらの写真からも伝わると思います。

マウナケア山の望遠鏡群(撮影:松井)

なんと、雲の種類によっては自分たちの方が「雲の上」にいる…なんてこともあるのです。
この写真を撮影した日はマウナケア山の高度約2000メートルに位置する中間宿泊施設「ハレポハク」では曇っていましたが、山頂に上がったらこの写真のように雲間に青空を見ることができました。

さらにこの土地は晴天率も高く、大気が安定しています。
高い山の上であることから湿度は低く、乾燥しています。そして近くに大きな都市がないため人工の明かりも極めて少なく、夜空が暗いです。
このようにマウナケア山は世界有数の天体観測に適した土地であることから、すばる望遠鏡はハワイに建設されました。

ちなみに研究者はすばる望遠鏡を使うたび、毎回ハワイに行っているのか…というと実はそんなことはなく、東京都三鷹市の国立天文台からもリモート観測ができるようになっています。

宇宙をどうやって「覗く」の?

「日本で一番大きな望遠鏡」といわれると、いつか覗いてみたい!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、残念ながらすばる望遠鏡には人間の目で見るための「覗き口」がないのです。
研究専用の望遠鏡なので、すばる望遠鏡の大きな鏡によって集められた天体の光は、観測装置に直接届けられます。

正しく天体を導入できているのか?研究者は望遠鏡を「覗く」のではなく、観測室のモニターからチェックをして観測をします。

すばる観測室での観測の様子

この写真は、マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡の観測室で実際に撮影したものです。
観測中の天体やデータ取得に必要な情報がずらりとモニター上に並んでおり、観測天体の導入はコンピュータで行います。

写真からも想像できます通り、観測室から星は見えないし、さらにはすばる望遠鏡が動いているところを生で見ることもできないんですね。

「天体観測」というと、寒空の下で望遠鏡を空に向けて…というイメージで考えがちかもしれませんが、すばる望遠鏡はコンピュータで制御されています。
空気は薄く、必要に応じて酸素ボンベも着用しますが…暖かいお部屋で快適です。

天文学の「最前線」に居続けるために

近年、スマートフォンや生成AIの機能が年々向上し続けているように、より大きな鏡を持つ望遠鏡が建設されたり、天体観測のための環境がより良い宇宙空間に望遠鏡が打ち上げられたり、天文学の世界でもその競争は熾烈です。

その最前線に居続けるため、すばる望遠鏡は25年間進化を続けています。

8.2メートルの巨大な鏡を綺麗な状態に保ちながら、かつて使用されていた観測装置から新たな性能の良いものへと置き換えたり、補償光学と呼ばれる大気のゆらぎをリアルタイムで補正しながら観測する技術を改良し続けたり、他国の研究機関の望遠鏡と共同観測を行うなど並々ならぬ工夫と知恵を重ねた結果、現在も宇宙の謎を解き明かす重要な役割を担い続けることができているのです。

そんな日本が誇るすばる望遠鏡について紹介して参りました。

今回掲載し切れなかったすばる望遠鏡の主な研究成果等は、今後Galileoでも取り上げていく予定です。お楽しみに!

記念すべき、すばる望遠鏡25周年。

すばる関係者による講演会など、全国でさまざまなイベントが行われています。

機会がありましたら、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

すばる望遠鏡 25周年特設サイト

この記事内でクレジットが記載されていない写真は全て、ライターの松井による撮影もしくは、松井と共にマウナケアで観測を行った天文学者が撮影しています。

名古屋大学大学院 博士後期課程2年
愛知県豊橋市出身。大学院で近傍銀河に関する研究に携わる傍ら、天文教育普及活動を精力的に行う。2024年にはドイツにて半年間の「プラネタリウム留学」を実現したプラネタリウムマニア。
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