天文学者の日常と若手へのメッセージ

星空や宇宙の研究というと、夜な夜な望遠鏡を覗いているイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし、現代の天文学者の日常は、意外にも私たちの想像とは異なるものかもしれません。今回は、云南大学中国西南天文研究所の島袋准教授に、研究者としての日常と、天文学を志す若者へのメッセージを伺いました。

天文学者の意外な一日

──天文学者の一日はどのように過ごされているのでしょうか?

「朝は意外と普通に始まります(笑)。出勤したらまずメールチェックですね。研究は世界中の仲間たちと進めているので、夜の間に海外から届いたメールの確認は欠かせません」

──その後はどのように?

「午前中は最新の論文をチェックします。毎日新しい論文が投稿されるので、自分の研究分野の動向を把握するのは重要な仕事の一つです」

──望遠鏡での観測は?

「実は私の場合、望遠鏡を直接覗くことはほとんどありません(笑)。午後はプログラムを書いて計算をしたり、セミナーやグループミーティングに参加したりします。指導している大学院生との議論も重要な時間です」

予想外の研究生活

──研究者になる前と後で、ギャップはありましたか?

「ええ、かなりありました。研究者は一人で黙々と研究するイメージがありましたが、実際は全く逆です。誰かと一緒に研究を進めたり、雑談の中からアイデアが生まれたり。コミュニケーションがとても重要なんです」

──研究以外の業務も多いとか。

「そうですね。実は書類仕事がかなり多いんです。特に研究費申請の書類作成は大切な仕事です。研究費が無いと学生に給料を払えませんし、海外の学会にも行けません」

思わず苦笑いを浮かべながら、「中国語で書類を書いているとき、『私、今何やってるんだろう…』という虚無感に襲われることもありますね」と打ち明けてくれました。

研究者に必要なスキル

──研究者を目指す人が身につけるべきスキルは?

「まずは好奇心ですね。そして、悩みすぎない心(笑)。研究ではうまくいかないことの方が多いので、適度な諦めの良さも必要です」

──具体的なスキルは?

「英語は必須です。論文を読んだり書いたり、海外の研究者とコミュニケーションを取ったり。プログラミングも重要で、私たちの分野では毎日のように使います」

そして意外なスキルも。

「コミュニケーション能力も大切です。研究の多くは共同作業。また、自分の研究を人に分かりやすく説明する力も必要です。学会発表や論文執筆、研究費申請、どれも『伝える力』が問われます」

若手へのメッセージ

──天文学を志す若い人たちへ、アドバイスをお願いします。

「天文学というと『星が好き』というイメージがありますが、実際は『物理学を使って宇宙の現象を理解する』のが現代の天文学です。高校生以下の方は、数学と英語を特に頑張ってください。この2つは大学以降の学びに直結します」

──研究者を目指す人に伝えたいことは?

「知識そのものより、その知識を得るまでの過程で身につけた考え方やスキルの方が大切だと思います。例えば『宇宙の年齢は138億歳』という知識自体は、直接的には役立たないかもしれません。でも、その結論を導き出すために必要な知識を調べ、理解し、計算するという過程で身につけたスキルは、どんな場面でも活かせます」

夢を追いかける勇気

──最後に、若い世代に伝えたいメッセージを。

「私自身、検察官志望から天文学者になり、日本から飛び出して世界各地で研究してきました。人生は予想もしない方向に進むことがあります。でも、その時々の興味や好奇心に素直に従って進んでいけば、必ず道は開けると信じています」

「大切なのは、知的好奇心を持ち続けること。そして、その好奇心の赴くままに、一歩一歩前に進む勇気を持つことですね」

静かな口調ながら、力強い言葉が印象的でした。


シリーズ完結:本インタビューは3回にわたってお届けしました。検察官に憧れた少年が天文学者へと転身し、「宇宙の夜明け」の謎に挑み続ける研究者の姿を通じて、科学の魅力と可能性を感じていただければ幸いです。

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