JRA競走馬の名前になった!?ー最古の天文盤「ネブラディスク」ってなに?

よく晴れた日の夜、空を見上げると星々が美しく輝いています。人類は何千年も前から星を観察し、宇宙の法則を解き明かそうとしてきました。その証拠の一つが、ドイツで発見された天文盤「ネブラディスク」です。この円盤はおよそ3600年前(紀元前1600年ごろ)に作られたと考えられている、「現存最古の天文盤」であり、天文学の歴史を塗り替える発見として注目されています。

(さらに日本では、JRA(日本中央競馬会)の競走馬「ネブラディスク」の名前として別の意味で大注目なのだとか!?)…なんだかこちらに微笑みかけているようにも見える、ちょっと不気味なこの円盤。一体、どんなものなのでしょうか?

発見された世界最古の天文盤

ネブラ・ディスクは、1999年にドイツのザクセン=アンハルト州にあるネブラという小さな村の近郊にて発見されました。
しかし発掘したのは考古学者ではなく、金属探知機を持った違法なトレジャーハンターでした。
彼らはこのディスクを盗掘し闇市場に流しました。その後の捜査によって2002年、警察が回収したのです。

正式な調査の結果、これは青銅器時代の遺物でありヨーロッパ最古の「宇宙の描写」だということが判明しました。
一見、ただ月や星が描かれているだけの銅板に見えますが…このディスクはなぜこんなにも重要視されているのでしょうか?

ネブラディスクと共に発掘された剣など

32個の星と月が描かれた青銅の円盤

ネブラディスクの大きさは直径およそ32cm、重さは約2kg。
青銅製の円盤に、金のインレイ(象嵌)で太陽(解釈によっては満月)、欠けた月、32個の星々、そしていくつかのアーチのようなものが描かれています。

ディスクの中央付近に描かれている 7つの星は、我々もよく知る星の集まりである「プレアデス星団(すばる)」を表している可能性が高いと言われています。
ヨーロッパでは農業のための暦として、すばるを使っていたと考えられているためです。

さらに、ディスクの両端にはアーチ状の装飾とその痕跡があります。アーチの端から反対側のアーチの端へと、ばつ印のように2つの斜線を引いてみます。するとそれらの線は、夏至・冬至の日に太陽が昇り、沈む方角とぴったり一致するのです。

これらの要素から、ネブラディスクは過去の人々による天体観測の基準となる道具だったのではないかと考えられています。

ディスクの出土地付近で春分・秋分の日に太陽の沈む位置を三日月側のアーチの中心部に合わせると、夏至・冬至の太陽の出入り位置が白線の先と合致する。

天文学の歴史を塗り替えた発見

ネブラディスクの発見は、天文学の歴史を大きく変えました。

これまで、ヨーロッパの青銅器時代には高度な天文知識はなかったと考えられていました。
しかし、このディスクの存在は当時の人々が星を観察し、農業や宗教儀式に活用していたことを示唆しています。

また最新の研究によると、ネブラディスクは初めから現在の形をしていたわけではなく、以下のように長い年月の間に用途が変化していた可能性が示唆されています。

Credit: Landesamt für Denkmalpflege und Archäologie Sachsen-Anhalt. (https://www.landesmuseum-vorgeschichte.de/himmelsscheibe-von-nebra/die-phasen-der-himmelsscheibe)
  1. 制作当初は、32個の星・満月(太陽?)・三日月のみ
  2. 両端にアーチが追加される
  3. もう1つのアーチが追加される
  4. 円盤を取り囲むように穴が開けられる
  5. アーチのうち1つが取り除かれた、もしくは剥がれ落ちる

そして、現在のネブラディスクの姿になったと考えられています。
この時系列は、模様が貼り付けられた跡や使われた材料に含まれる元素の比率などを調べることにより、明らかになりました。

謎多き天体観測器具の現在

現在、ネブラディスクは、ドイツ・ハレという街にあるザクセン=アンハルト州立先史博物館に展示されています。

筆者は昨年、この天文盤を見るためにハレを訪れました。
ヨーロッパ最古の「宇宙の描写」を目にした瞬間、この美しい円盤は一体何なんだ!?…と、ドキドキが止まりませんでした。

ネブラディスクは誰の手によって、なぜ作られ、どのように使われてきたのか。
まだまだ未解明の部分も多く、現在も研究が続けられています。

今夜は、謎だらけの天文盤「ネブラディスク」に想いを馳せながら夜空を見上げてみてはいかがでしょうか。
次回はネブラ・ディスク出土地の訪問レポートをお届けします!


参考文献

この記事に使用している写真のうち、クレジットが無いものは全てライターの松井が撮影しています。

名古屋大学大学院 博士後期課程2年
愛知県豊橋市出身。大学院で近傍銀河に関する研究に携わる傍ら、天文教育普及活動を精力的に行う。2024年にはドイツにて半年間の「プラネタリウム留学」を実現したプラネタリウムマニア。
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