シリーズSKA アフリカの地で飛躍する電波天文-MeerKAT- 

世界最大の電波望遠鏡計画SKAには、precursor(先駆者)とよばれる先行試験機が存在しています。そんなSKA-prescursorを紹介するシリーズSKA。今回は第三回、MeerKATを紹介します。アフリカの地で電波天文学は大きく飛躍しています。

MeerKAT-ミーアキャット-とは

MeerKATは64台のアンテナからなる電波干渉計です。

それぞれのアンテナは直径13.5mで、最大基線長(アンテナ間の距離の中で最も長いもの)は7700mです。
各アンテナはお皿のような形をしたオフセットグレゴリアンアンテナ(参考)であり、SKAではこのアンテナのことをDish(ディッシュ)と呼んでいます。
観測周波数は、UHFバンド(580 – 1015 MHz)、Lバンド(900 – 1670 MHz)、Sバンド(1750-3500MHz)です。

MeerKATの全景。広大な大地にアンテナの白さが映えます。
credit: Manchester university

設置場所は南アフリカの北ケープ州カルーです。
第一回と第二回で紹介したASKAPとMWAはオーストラリアに設置されていましたが、MeerKATは南アフリカに設置されています。

アンテナの70%に当たる45台のアンテナは300mくらいの距離に密集して配置されています(二次元ガウシアンにより決定される。)。
これは、干渉計の原理的な弱点である広がった天体の観測に弱いという特徴を克服するために行われています。 

中心にアンテナが密集していることがよくわかる
Credit MeerKAT specifications – External Service Desk Knowledge Base – Confluence (atlassian.net)

MeerKATのアンテナ配置が実際にどのようになっているかは以下のgoole mapより確認することができます。

ASKAPやMWAと同じように、砂漠地帯に設置されていることがよくわかると思います。
電波天文をやるには、人が周りにいないことが重要になることが確認できます。

MeerKATのサイエンス

MeerKATでは、以下に示すサイエンスの目標に対して大規模なサーベイ観測を予定しています。

  1. パルサータイミング
    パルサーが発する規則的な電波を利用して、相対性理論の検証を行う。
  2. 遠方宇宙の探索
    中性水素が発するスペクトルや、その他分子の吸収線をプローブとして銀河のサーベイ観測を行ったり、初期宇宙の物理定数についての情報を取得したりする。
  3. 近傍銀河の探索
    太陽系に比較的近い場所にある多くの種類の銀河を観測し、銀河に存在するガスの性質を調べる。
  4. 突発天体の探索
    ガンマ線バースト、Ia型超新星などの突発的天体を探索し、ブラックホールや中性子星の質量降着やガス降着について明らかにする。

始動、MeerKAT

2016年にMeerKATが初めて観測した画像が公開されました。
当時はまだ完成段階になく、16台のアンテナのみを使っての観測でした。

MeerKATによる初観測画像
Credit:SARAO

16台のアンテナ(MeerKAT全体では64台)を使って取られたこの画像には1300以上の銀河が写っています。
MeerKAT以前の電波望遠鏡が同じ領域を観測した時に検出された銀河の数が70程度だったことを考えると、MeerKATという望遠鏡の威力が分かると思います。

MeerKATは単純な先行試験機であるわけではなく、実際にSKA-MIDに統合されることが決定してMeerKATとして運用するのは残り数年です。

SKA-MIDのプロトタイプアンテナの初観測も行われました。
アンテナのタイプはMeerKATとほぼ同じもので、オフセットパラボラアンテナです。

SKA-MIDのプロトタイプアンテナ
Credit: SARAO

プロトタイプアンテナの観測結果が次の図です。2.5GHzにおける観測を行いました。

南天の画像になります。南アフリカから望遠鏡で観測で切る部分からの電波放射を示しています。
SgrA(銀河系中心)からの強い放射やマゼラン雲、オリオン座の星形成領域からの放射も見えています。

SKA-MIDプロトタイプアンテナの観測で得られた画像
Credit: SARAO

日本との関わり

日本の大学もMeerKATを通して研究、教育活動に取り組んでいます。

南アフリカのノースウェスト大学および南アフリカ大学の教員・学生が鹿児島に滞在し、鹿児島大学の学生とともに電波天文学を学び、共同で研究活動を行うというプログラムが開催されました。
このプログラム中でMeerKATの観測データが実習に使用されました。

このプログラムは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「さくらサイエンス招へいプログラム」による助成金および鹿児島大学天の川銀河研究センターの補助によって実現されました。

天文学を通した研究活動、国際交流にもMeerKATは役立っています。

MeerKAT始動前と始動後で、電波天文学の世界は大きく変わったといえます。
今後もMeerKATの観測に注目です。

そしてもちろん、SKAにも注目です。


参考

オフセットグレゴリアンアンテナは放物面の一部を切り取って主反射鏡としたものです。
こうすることで、焦点に設置される副鏡(受信部)がビーム上にないため利得が良くなったり指向性が良くなったりします。
実際にBS/CS放送の通信に使用されているのはオフセットアンテナです。


参考資料

South African Radio Astronomy Observatory

https://skaafrica.atlassian.net

MeerKAT AR1 Information Sheet

https://www.kagoshima-u.ac.jp

豊田工業高等専門学校電気・電子システム工学科2年/N•S高等学校研究部広域科学グループ
北海道出身。2021年豊田高専入学。一年のスイス留学ののち、現2年(2024年3月)。2023年KdEi研学外部員。アマチュア無線技術を応用した低周波電波天文学に取り組んでいる。装置開発(電波)
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