前回、宇宙への興味から研究者を目指すまでをお話しいただいた熊崎さん。今回は、博士課程でのオランダ留学体験と、その後のキャリアチェンジについてお伝えします。
海を渡る決意 ー オランダ留学のきっかけ

―― オランダへ留学されたそうですが、どのようなきっかけで決まったのでしょうか?
「修士課程2年の天文学会に参加した時に、共同研究者から『熊崎くん、南アフリカとか行ってみたくない?』と軽めに声をかけていただいたんです。当時、南アフリカが次世代電波望遠鏡SKAの建設候補地だったので、最初は研究会なのかなくらいに思っていたのですが、実は年単位の海外派遣プログラムの派遣学生を探していたということで驚きました。」
―― すぐに決断されたんですか?
「実は最初は迷いました。海外で長期間生活するという不安もありましたし、何より英語に自信がなかったんです。でも、『こんな機会はもうないだろう』と、思い切って挑戦することにしました。結局派遣先は、SKAの先行機として始まっていたLOFARがあるオランダのGroningen大学になりました。」
研究の最前線で得た経験

―― 実際にオランダでの研究生活はいかがでしたか?
「最初は本当に大変でした。着いた翌朝に不動産屋へ行って、拙い英語で物件探しをしました。しかもオランダは自転車大国。キャンパスが郊外にあったので張り切って自転車で通学したところ、初日から道に迷って遅刻をかましてしまい、ボスに心配されました(笑)。
研究の議論は専門用語が飛び交いますし、日常会話でも苦労しました。でも、現地の方々がとても親切でした。英語はオランダ人にとっても外国語ですし、留学生も多く拙い英語でも最後まで聞いてくれる。そういう環境のおかげで、徐々に自信がついていきましたね」
―― 印象に残っている出来事はありますか?
「ある日、自分が開発した解析ツールを研究室のメンバーに紹介する機会があったんです。プレゼンが終わった後、何人かの同僚が『これどうやって作ってるの?』とか『これ使わせてほしい』と声をかけてくれて。自分の作ったものが誰かの役に立つ、その喜びを初めて実感しました。それが後の進路を考えるきっかけにもなりました」
転機となった帰国後の選択

―― 帰国後、進路について考え始めたそうですね。
「そうなんです。オランダから帰国して3日後に、たまたま就職説明会があって参加してみたんです。博士卒を採用してくれる会社は少ないという印象があったのですが、意外とそんなことはなく、どの会社さんもウェルカムでした。その時に、プログラミングのスキルがいろんな企業でも強く求められていることを知りました。それまでは漠然と研究者一本で考えていたんですが、視野が広がりましたね」
―― なぜゲーム会社を選ばれたんですか?
「実は昔から、ある歴史シミュレーションゲームが好きで『ゲームを通じて歴史に詳しくなる人がいるように、科学もゲームを通じて楽しさを伝えられるんじゃないか』と思っていたんです。当時は『理系離れ』なんて言葉があったので、それをどうにか払拭して宇宙の面白さを伝えたいという気持ちもありました。
その時の人事担当の方も『それ、面白いね』と食いついてくれて。宇宙を研究してきた経験がもしかしたら社会に還元できるかもしれない、新しいことにチャレンジする環境はここだ!と感じました」
研究者からゲーム開発者、そして起業家へ。熊崎さんの多彩なキャリアの背景には、常に「理解すること」と「伝えること」への情熱がありました。
第3回「研究者から起業家へ ー次世代に伝えたいこと」では、現在の活動や、若手研究者へのメッセージについて詳しくお伝えします。お楽しみに。
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