MWAタイルモジュール

シリーズSKA 低周波電波で狙う宇宙最初の星-MWA-

世界最大の電波望遠鏡計画SKAには、precursor(先駆者)とよばれる先行試験機が存在しています。先駆者たちの数は4つ。シリーズSKAの先駆者たちは、そんなSKA-precursorの紹介をしています。
第二回はMWA(Murchison Widefield Array)。低周波電波領域での大規模観測を通して、宇宙最初の星を探ります。

MWAとは

MWA(Murchinson Widefield Array)はオーストラリア西部の砂漠地帯に設置されている大型電波望遠鏡です。第一回で紹介したASKAPと同じ、マーチンソン電波天文台に設置されています。

MWAタイルモジュール

この地域一帯が電波観測に非常に適した場所であることがおわかりいただけると思います。

MWAは電波干渉計で、複数台のアンテナを結合して仮想的に大きな電波望遠鏡を作るという手法が用いられています。これを用いることで非常に視力よく宇宙を観測することができます。
4096台のアンテナが、5km四方に広がって配置されており、日本やオーストラリアを中心に国際プロジェクトとして2013年から観測・研究が進められています。
観測周波数は70~300MHzで、波長で表すと1~4mもの長波長の電波を観測します。

MWAの特徴

タイルモジュール

MWAでは16台のアンテナをまとめて「タイル」というモジュールを作ります。
アンテナは1.10mの間隔で4×4の正方形グリッドで並べられ、この塊がひとつのフェーズドアレイとして使用されます(第一回ASKAPを参照)。
MWAは全部で256台のタイルで構成され、観測が行われます。

Credit https://www.mwatelescope.org/

タイルは、亜鉛メッキが施された5×5mのメッシュ上にアンテナが16台設置されているつくりをしています。
このメッシュが仰角30°以下の高度でアンテナのパターン(受信できる範囲)をカットする効果を作り出します。
結果として、地上から発せられる人口電波からの干渉を避けることができます。

70~300MHzというMWAの観測波長帯はVHF帯と呼ばれ、FM放送や航空無線、かつてはテレビ放送にも使われている波長帯です。そのため、人工電波の干渉には十分注意する必要があるのです。

ボウタイアンテナ

Credit https://www.mwatelescope.org/

MWAのアンテナは、蝶ネクタイを二つ直角に組み合わせたような特徴的な見た目をしています。
これはボウタイ(bowtie)アンテナと呼ばれるものです。
ボウタイとは英語で蝶ネクタイのこと、見た目通りの名前が付けられています。

このボウタイアンテナは広帯域アンテナの一種として知られています。
一種類のアンテナで70~300MHzという広帯域が達成されているのは、こうした広帯域アンテナが使用されているからです。

また、MWA-VCS(The Murchison Widefield Array Voltage Capture System)と呼ばれるモードも用意されており、ミリ秒単位での画像取得やより複雑な電圧波形を記録することができるようになっています。
感度は4倍程度落ちるのですが、そのデメリットを上回る性能で低周波パルサーの探索に大きなインパクトを残しています。(Tremblay, S. E., Ord, S. M., Bhat, N. D. R., et al. 2015, PASA, 32, e005)

MWAの目指すサイエンス

広帯域の電波を観測できるMWAのキーとなるサイエンスは以下の通りです。

  1. 再電離の時代
    130億年前の「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれるビッグバンから数億年たった時代を探ります。中性水素が発する電波である21cm輝線を頼りに、宇宙暗黒時代が終わり初代星(宇宙最初の星)ができた時代の探索を進めます。
  2. 銀河
    天文学において、銀河の研究は非常に大事なものです。MWAは低周波電波望遠鏡でしか見ることができない天体を狙い、私たちが住む銀河系や、その他の銀河で起こっている現象の謎に挑みます。
  3. タイムドメイン
    MWAの持つ高いサーベイ能力を活かして、比較的短時間に変化する天体現象の発見を目指します。
    褐色矮星やパルサーなどの既知の天体を新たに探すことに加えて、未知の突発天体現象の発見にも挑みます。
  4. 宇宙天気、ジオスペース
    太陽圏、電離圏と呼ばれるジオスペースについての研究もMWAの目的です。
    太陽バーストが地球に到達するまでの過程を様々な面から検証します。インフラ、交通、通信など現代社会にとってなくてはならないもの太陽活動から保護するための「宇宙天気予報」についての研究もおこなわれています。
MWAタイルモジュール

日本の関わるサイエンス

日本からは名古屋大学、熊本大学、国立天文台を中心としたグループが、「再電離の時代」に関する研究に参加しています。
機械学習を用いて前景放射(解説を参照)を除去する手法を開発したり人工電波を除去するアルゴリズムを開発したりと重要な役割を担っています(科研費21H04467)。
また、熊本大学では「銀河」の科学に関して、MWAやASKAP(シリーズ第一回を参照)での偏波観測をもとに、銀河空間の磁場を検出することを目指して研究が進められています(科研費21H01130)。

前景放射

観測したい天体よりも観測地点に近い位置の天体から放射される電波や可視光のこと。
宇宙再電離期の21cm線にとっての前景放射は、銀河系や系外銀河からのシンクロトロン放射である。
これらの放射は宇宙再電離期の21cm輝線よりも3桁以上明るく、21cm輝線は覆い隠されてしまう。これらを除去することが宇宙の晴れ上がりを探索することに必要。

このように、MWAは日本も深く研究に参加している電波望遠鏡です。
日本の天文学者は日本、世界、人類の進歩のために日夜活動を続けています。

皆さんに日本の天文学者がどんな活躍をしているのか興味を持っていただけたのなら、筆者にとってそんなに喜ばしいことはありません。


参考文献

https://www.mwatelescope.org
宇宙最初の星を探る電波望遠鏡MWAの拡張完了 | 熊本大学 (kumamoto-u.ac.jp)
https://kaken.nii.ac.jp
Tremblay, S. E., Ord, S. M., Bhat, N. D. R., et al. 2015, PASA, 32, e005

豊田工業高等専門学校電気・電子システム工学科2年/N•S高等学校研究部広域科学グループ
北海道出身。2021年豊田高専入学。一年のスイス留学ののち、現2年(2024年3月)。2023年KdEi研学外部員。アマチュア無線技術を応用した低周波電波天文学に取り組んでいる。装置開発(電波)
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