「まさか、私が天の川銀河を研究することになるなんて」。
名古屋大学大学院博士後期課程で研究に励む松井さんは、少し照れくさそうに笑います。
プラネタリウムの解説者を目指して始まった研究生活。その道のりには、意外な発見と新たな魅力が待っていました。
想像を超えた研究室の日常

──大学院に進学した時のことを教えていただけますか?
「正直、研究室の雰囲気にドキドキしていました(笑)。私、岡山理科大学の出身じゃないですか。名古屋大学の先輩や同級生は、きっと怖いんだろうなって」
予想していたのは、厳しい競争的な環境でした。
「『そんなことも分からないで名古屋大学に来たの?』みたいな、ライバル意識むき出しの雰囲気を想像していたんです。でも、全然違いました」
実際の研究室は、和やかな雰囲気に溢れていたといいます。
「みんな仲良しなんです。分からないことがあったら、先輩が親身になって教えてくれる。同級生と議論していると、思わぬアイデアが生まれたり。研究って、意外と孤独な作業じゃないんだなって」
研究の醍醐味─理論と観測の出会い

──具体的にはどんな研究をされているんですか?
「現在は、私たちが住んでいる天の川銀河がどのようにしてできて今の姿になったのか、実際の観測データをもとに研究しています。でも大学院で最初に取り組んだ研究では、天の川銀河の周辺に位置する小さな銀河で超新星爆発が起きた時、その銀河全体にどんな影響が起こるのかを調べていました」
その研究過程で、忘れられない瞬間があったといいます。
「観測結果と、自分の理論計算が合致した瞬間は、本当に感動的でした。画面に表示されたグラフを見て、思わず『あっ!』って声が出ちゃって」
深夜の研究室で、一人興奮していたそうです。
「次の日、研究室の仲間や先生に『昨日、いい結果が出たんです!』って話したら、みんなで喜んでくれて。そういう瞬間って、研究の醍醐味だなって思います」
挑戦は続く─ドイツでの「プラネタリウム留学」

研究だけでなく、夢への挑戦も続いています。
「大学院に入ってから、自分で企画した『プラネタリウム留学』でドイツに行きました。これは完全に自分の力で実現させたプロジェクトなんです」
──なぜドイツだったんですか?
「ドイツには、今からちょうど100年前、レンズを使う現在主流のタイプのプラネタリウムの開発に世界で初めて成功した国なんです。つまり、プラネタリウムの聖地です。さらに世界的に有名なプラネタリウムがたくさんあって、その投影の手法も多岐に渡ります。私も将来プラネタリウムの解説者になりたいので、海外の技術や考え方を学びたいと思って」
準備は簡単ではありませんでした。
「まず、英語で文章を書くのがとにかく苦手だったんです…(苦笑)。でも、どうしても行きたくて。英語の勉強から始めて、企画書を作ったり、現地の奨学金担当の先生にオンライン上で直談判して資金も自分で工面したり、専門の近い先生と1対1でのビデオミーティングで自分の野望を語ったりもしました。『チャンスは待っていない』って、学部時代に学んだことを実践したんです」
変化する研究スタイル─AIとの出会い
最近は、研究手法にも新しい変化が訪れています。
「Pythonを使ったプログラミングはもちろん、最近流行りのデータサイエンスや機械学習も活用しています。昔は手作業でやっていた解析が、AIの力を借りることでより効率的になってきているんです」
──AIの活用に戸惑いはありませんでしたか?
「最初は嫌でしたよ。私が修士1年生の頃に1ヶ月くらいかけて必死で勉強して作ったプログラム、今の後輩は30分くらいChatGPTと対話するだけでささっと簡単に書いちゃうんですもん(笑)
『今までのやり方は今後もう通用しないんだ』って不安に思いつつも、技術の進化にはワクワクしています。新しいことを学ぶのって、実は楽しいんですよね」
研究者としての成長

「天文学の研究って、物理や数学だけじゃないんです。国語力も英語力も必要だし、コミュニケーション能力も忍耐力も求められる。最初は大変だと思っていたことが、今では自分の強みになっています」
特に、英語については思い入れがあるようです。
「もう!!!とにかく英語は大事です!」と力を込めて語ります。「私、実は英語教育に力を入れている高校の出身なんです。それを売りにしている学校だから、周りの友達は英語が得意な子が多くて多くて。
私も小学校の頃、簡単な英会話は習っていたので話すことに抵抗はありませんでしたが、文法の授業が苦手で苦手で…。周りは得意な子たちばかりだから余計に自信を失ってしまいました。
でも、大学に入ってからは研究に必要だから必死で勉強しました。今では同じ研究室に仲のいい留学生の友達がいますし、英語の論文を読むのも、海外の研究者と議論するのも楽しめるようになってきています」
次回予告:最終回は、天文学を志す若者へのメッセージと、プラネタリウム解説者という夢の実現に向けた展望について伺います。
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