舞台女優を目指していた高校時代。プラネタリウムとの出会いをきっかけに天文学の道へと進路を変え、現在は天の川銀河の研究に取り組む名古屋大学大学院生に、これから夢を追う若者たちへのメッセージを伺いました。
「天文学って何の役に立つの？」という問いに向き合って
──よく聞かれる質問があるそうですね？
「はい。『天文学を学んで何になるの？』って、よく聞かれます」と少し苦笑いを浮かべます。
「でも、私はこう答えるんです。『むしろ、天文学を学んだ人は何にでもなれるんです』って」
意外な答えに、思わず詳しく尋ねてみました。
「例えば、私の研究では最近流行りのPythonを使ってプログラミングをしたり、データサイエンスや機械学習を活用したり。つまり、民間企業で求められるスキルや能力が自然と身についていくんです」
実際、天文学を学んだ先輩たちの進路は多岐にわたるそうです。
「研究者はもちろん、IT企業のデータサイエンティストになる人もいれば、金融機関で活躍している人も。星空だけでなく、その先にある可能性は無限大なんです」
意外と必要！？文系的な能力
──研究に必要なスキルは？
「物理や数学は当然必要ですが、実は国語力もすごく重要なんです」
意外な答えに、理由を尋ねてみました。
「研究って、結果を論文にまとめたり、プレゼンテーションしたりすることが重要なんです。いくら良い研究をしても、それを相手に分かりやすく伝えられないと意味がない」
高校時代、苦手だった科目が今、活きているといいます。
「私、体育と国語と英語が苦手で…。でも今、研究発表って、まさに『体育会系の精神力』と『国語力』と『英語力』の総合力が試されるんです（笑）。面白いですよね」
そして、まさかの一番苦手な科目が…
「ちなみに、私は高校に上がってから、体育を除くどの科目よりも高校物理が超苦手で、赤点をとったことまであります（笑）
それが今では宇宙物理学専攻！理不尽に公式を暗記させられる高校物理と、式を導出していく大学物理は全くの別ものなので、物理が苦手だというだけで諦める必要はないってことを、天文学を目指す高校生には伝えたいです！！」
海外への扉を開いた経験
──海外経験の重要性についても教えてください。
「学部2年の時に『すばる望遠鏡観測体験企画』に応募したんです。本来は3年生向けの企画で、1，2年生の応募はあまり想定されてないような…。でも、どうしても行きたくて。1年生の時から情報を集めて、2年生で合格しました」
その積極性が、思わぬ幸運につながりました。
「実は翌年から、この企画自体が諸事情で開催できなくなってしまったんです。つまり、3年生まで『お利口さん』に待っていたら、永遠に参加できなかった。自分から動いて良かったなって、今でも思います」
この経験が、後のドイツでの「プラネタリウム留学」にもつながっていきました。
「チャンスは待っていてはくれません。自分から情報を集めて、積極的に行動を起こすことが大切。それは研究でも、人生でも同じだと思います」
夢を追う若者たちへ
──天文学を目指す高校生に向けて、メッセージをお願いします。
「とにかく、英語を中心に色々なことを勉強してください！」と力強く語ります。
「私も英文法は本当に苦手で。でも、研究に必要だから必死で勉強しました。今では海外の研究者と議論するのが楽しみになっています」
そして、意外なアドバイスも。
「先ほどの話でも出てきましたが、天文学の研究って、意外と理系科目だけじゃないんです。国語力も、コミュニケーション能力も、忍耐力も必要。さらに海外の人との雑談では、各国の政治や経済の話になることも珍しくないですよ。
だから、今勉強している教科の中に『これ要らないな』って思うものは、実はないんです。ぜひ、満遍なく勉強を進めていってください！台本ばかり読んでいた高校時代の自分にも、そう伝えたいです（笑）」
最後に ─ 星空が教えてくれたこと
「私は高校時代、足の怪我がきっかけで舞台女優の夢を諦めました。でも、その時に出会ったのが星空の世界。プラネタリウムという新しい夢です」
静かな口調で、しかし力強く語ります。
「人生って、思い通りにはいきません。でも、そんな時こそ空を見上げてほしい。星空の下では、誰もが平等に小さな存在。でも、その小さな私たちにも、無限の可能性が開かれているんです」
今日も彼女は、天の川銀河の研究に没頭しながら、プラネタリウム解説者という夢に向かって歩み続けています。
シリーズ完結：本インタビューは3回にわたってお届けしました。舞台から星空へ。思いがけない道を歩みながらも、自分らしい道を切り開いていく若き研究者の姿から、夢を追うことの意味を考えるきっかけになれば幸いです。
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