ICT(情報通信技術)の急速な発展が、天文学に大きな変革をもたらしています。
イギリス・マンチェスター近郊のジョドレルバンクにあるSKAO(Square Kilometre Array Observatory)。この天文台は、オーストラリアと南アフリカの砂漠地帯に建設されている世界最大の電波望遠鏡SKAの運用を行います。
この電波望遠鏡の完成によって、宇宙のはじまりや重力理論の検証を始めとした天文学的な発展が期待されています。
SKA(Square Kilometre Array)計画
SKAの正式名称は「スクエア・キロメートル・アレイ」で、望遠鏡の最終完成時には1km2の集光面積を持つ世界最大の電波望遠鏡を建設する国際大型計画です。
イギリス、オーストラリア、南アフリカをはじめとした世界16か国が参加しています(2024年3月現在)。
日本は正式参加しておらず、オブザーバーとしての参加となっています。1km2というとてつもなく大きな集光面積を実現するために、多数の素子アンテナを結合してひとつの大きな電波望遠鏡を実現する電波干渉計という手法を使います。
関連記事
SKAが目指すサイエンス
SKAが観測対象にしている、メートル波・センチメートル波の観測は、宇宙電波の発見、中性水素輝線の発見、クェーサーの発見、パルサーの発見(1974ノーベル物理学賞)、宇宙マイクロ波背景放射の発見(1978 ノーベル物理学賞)、そして近年は瞬発電波バースト(FRB)の発見など、天文学上の偉大な発見に数多く貢献しています。
第1期(SKA1)では、以下に示す5つのキーサイエンスを掲げています。
- 宇宙暗黒時代と再電離期の検証
宇宙再電離期と呼ばれる初期宇宙の中でも特に未知で暗黒な時代の後期に、原始のブラックホールや銀河がどのようにして形成されたかを中性水素の吸収線を手掛かりに探ります。 - 銀河進化、宇宙論、ダークエネルギー
強力なサーベイ能力の強みを活かし、非常に大きな体積の観測をすることで、CMBによる精密観測をこえた宇宙論の新しいフロンティアを目指します。 - 宇宙磁場の起源と進化
偏波の観測を行うことで、様々な天体の磁場を広域かつ3次元的に始めて測定できるようになり、天体形成理論のボトルネックになっていた磁場の謎を紐解くことができます。 - パルサーおよびブラックホールによる強重力場の検証
パルサーの精密観測をとおして、人類初のナノヘルツ重力波の検出、その重力波源である巨大ブラックホールの成長史の解明、そして重力理論の検証が試みられます。 - 生命の誕生
アミノ酸などの探査で、発見されなくても発見されても、生命の起源を調査するのに非常に大きな進歩が期待されます。
SKAはセンチ波メートル波の観測を通して、幅広い領域のサイエンスに挑戦することができるのです。
まさに汎用望遠鏡ですね。
二種類のアンテナ – ディッシュとツリー
SKAは二種類のアンテナを用いて50MHz~15GHzという非常に広範囲な周波数帯の電波をカバーします。
SKA-Low(50MHz~350MHz)はオーストラリアのアウトバックに、SKA-Midは(350MHz~15GHz)は南アフリカのカルー砂漠にアンテナを設置することになります。
FMラジオのアンテナが対応している周波数域が一般に75MHz~90MHzであることを考えると、SKAで使用される二種類のアンテナがいかに広い帯域をカバーしているかがわかるかと思います。
テレビ、ラジオ、電子レンジなどの人が使う電波を避けるために、人里離れた砂漠地帯を建設地に設定しています。
SKA-Lowはクリスマスツリーのような見た目をした対数周期双極子(ログペリダイポール)アンテナというアンテナを使用します。このアンテナは、広帯域かつ鋭い指向性を持つことが特徴で、広い用途に用いられています。オーストラリアのマーチンソン天文台が中心になって開発されました。
SKA-Midはお皿のような見た目をしたパラボラアンテナを使用します。ご家庭で使用されているBS/CS受信用アンテナと原理は同じものです。こちらのSKA-Midは試験先行機として「MeerKAT」が運用を開始しており、成果が上がり始めています。
SKA1では、SKA1-Low約13万基を最長距離74kmの範囲に、SKA1-Mid約200基を最長距離150kmの範囲に配置します。
ICTと天文学 – ソフトウェアテレスコープ
SKAは、これまでにない大量のアンテナを広範囲に設置、信号取得や情報転送に必要な信号処理装置や長距離伝送システム、膨大な量のデータを処理するスーパーコンピュータから構成されています。
SKAが始動すると、各サイトから毎秒8テラバイトもの大量のデータが送られることになります(家庭用通信の約10万倍のスピード)。
高性能スーパーコンピュータで送られてきたデータを解析、SKA天文台側は年間700ペタバイトのデータをアーカイブします。
つまり、SKAはICTの発展によって膨大な量のデータの伝送、計算処理、蓄積が可能になったことで実現された望遠鏡なのです。別名ソフトウェアテレスコープとも呼ばれています。
またSKA計画では、環境負荷の低い発電送電システムや遠隔制御など、天⽂学との関係が低い産業分野の技術も利用します。
SKAOは、SDGs(Sustainable Development Goals)に寄与することを目指して、グローバルな課題解決に取り組んでいます。イノベーションの創出、雇用の創出、経済の活性化、新世代の科学者やエンジニアの育成など、すでにSDGsに貢献しています。
現時点(2024年3月)では日本は「オブザーバ」という形での参加にとどまっています。日本は、他参加国からSKA計画への本格的な参加が望まれています。
トップ画像: